なぜ日産の監査人はゴーン事件を事前に見抜けなかったのか?海外関係会社の監査手法

Hagiyamaです。

私は以前、日系大手グローバル企業の海外関係会社(子会社・関連会社など)の監査を担当していたことがあります。

当該クライアントは海外会社の数を全て合わせて100社超えていましたので、かなり大変でした。

ですが、今となっては掛け替えのない経験となっています。

日産の事件では海外会社を使って会社資金を不正送金されたとの報道なので、会計監査人が監査手法を適切に実施していれば事前に発見できた可能性があります。

ここでは、一般的な海外関係会社のについて簡単にご紹介します。


・海外法人の全体把握
まずは毎年1度、連結の範囲となる会社の変更を確認するところから始まります。
関係会社の増減について、新規設立については設立の目的、新規買収の場合は買収目的や買収資料(デュー・デリジェンスレポートや株価算定書の入手)を入手し、異常がないことを確認します。関係会社を範囲から除外する場合には、除外する理由やその裏付けとなる資料(撤退に関する稟議書類等)を入手します。

この全体把握の中で最もリスクがあるのは、連結外し(連結の対象外とすること)をされることです。数十年前の日本では親会社の単独決算が主体でしたので、連結対象外の会社を用いて押しつけ販売などにより親会社の損失を子会社に飛ばし、親会社単体決算の業績を良く見せるという手法は普通に行われていたようです。
今は、日本基準であってもIFRSであっても、海外現地法人に支配力や影響力があるにも関わらず連結範囲の対象外とすることは原則的に認められません。


・決算書の増減分析

上場企業は四半期報告を実施していますので、四半期で決算書の増減分析を実施します。増減分析とは、前期や前年同期と比べて異常な増減が出ている勘定科目の理由を把握することです。
これは非常に重要な監査手続ですが、意外なことに海外会社に関してはこの分析が十分に実施されていないという印象があります。
海外現地法人における投資や融資について、多額な場合はその内容を把握する必要があります。 ゴーン事件では海外にある子会社を利用して会社の資金を不正に送金されたということなので、監査人が海外会社の決算書の分析を精緻に実施してれば事前に発見ができた可能性があります。


・海外現地監査人との連携
重要な事業拠点となる海外法人については、現地の監査人に監査インストラクションを送付し、その回答を入手するという手続を実施します。
監査インストラクションについては、下記で少しだけ紹介しました。

・現地法人の訪問調査
特定の海外の現地法人を直接訪問し、決算書についての監査(または特定項目について調査)や内部統制に関するレビューを実施することです。たいていの場合、この訪問期間中に海外現地の監査人とのインタビューも実施します。
英語でのコミュニケーションを避けるために海外現地に行きたがらない監査人は割と多い印象ですが(特に国内企業のみを監査している部門ではその傾向がありました)、日産事件後は行かない理屈も通用しづらくなるのでないでしょうか。
(自分で英語を話さなくても、別の部署から英語堪能なスタッフを通訳として調査メンバーとして同行させるという方法もあります)

(ちなみにこれは余談になりますが、私は当時1年間で海外子会社4社くらい訪問していましたが、訪問した中で最もよく印象に残っている国を敢えて一つだけ選ぶとすれば、下記のハンガリーでしょうか)


大まかには以上です。

ゴーン事件が見つけられなかったのは、海外という日本と遠く離れかつ目の行き届いていない拠点を通じて不正をされたからだと考えます。

会計監査人は、「目が行き届きにくい = 内部統制上のリスクがある」と考えるべきでしょう。