「時価の算定に関する会計基準」の公表とIFRS第13号(公正価値測定)の関係

matsumotoです。

今回は久々に日本の会計基準の動向についてお届けしたいと思います。

目次

最近の日本基準の制定・改正の動向

わが国ではかねてより、自国の基準を有しつつも、
IFRSとのコンバージェンス(=収れん)を念頭におきながら、
会計基準の制定・改正が行われてきました。

最近では、下記が記憶に新しいところです。

・収益認識に関する会計基準の公表←IFRS 第15号を受けて
・リース会計基準の改正(検討中)←IFRS 第16号を受けて
・金融商品会計基準の改正(検討中)←IFRS 第9号を受けて

今回新たに公表された基準

こうしたコンバージェンスの流れを受け、さらに金融商品会計基準の
改正が検討されたことを受け、2019年7月4日に企業会計基準委員会より企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」が公表されています。

こちらは、公正価値による測定について定めたIFRS第13号を踏まえて、
基本的にはIFRS第13号の内容をそのまま取り入れる形で制定されたものです。
(実際には、日本のこれまでの実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別項目に対するその他の取扱いを定めることとされています。)

公表の経緯としては、金融商品会計基準で時価の算定が要求されている一方で、
その算定方法については具体的なガイダンスが存在しなかったため、IFRSのように詳細なガイダンスを設けましょう、ということになっています。
(なお「公正価値」という文言は、日本基準では「時価」に置き換えられています。)

確かに、これまでの日本基準における「時価」といえば、
金融商品会計基準の第6項において、
“公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格、気配又は指標、
その他の相場(市場価額)に基づく価額をいう”
という定義されてはいるものの、具体的な算定方法については触れられていませんでしたので、この算定方法が明確になったのは良い改正と言えるでしょう。

ちなみに今回の改正では、時価の定義が次のように変更されています。
“「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう。 “

特徴的なのが、日本基準では時価といってもそれが入口価格(資産の取得のために 支払った価格または負債の引受けの際に受け取った金額)なのか、出口価格(資産の売却により得た金額または負債の移転のために支払う金額)であるのかが不明であったところ、今回の改正によりそれが「出口価格」であることが明確になったことでしょう。

どうなる?評価方法

時価の算定方法については、 IFRS第13号では下記の3つが「評価技法」
として例示されています。

①マーケット・アプローチ(市場に同様のものがあればそれを参考にする)
②コスト ・アプローチ (再調達したらいくらか?)
③インカム・アプローチ(将来のキャッシュフローから現在価値へ)

今回の基準においても、

“時価の算定に当たっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法
(そのアプローチとして、例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチがある。)を用い、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にする。”

との記載があることから、やはりIFRS第13号と同様の方法を想定していることが伺えます。

さて、ここで「インプット」という見慣れない用語が出てきましたが、
これは、上記の方法で時価(というアウトプット情報)を算定するに際して
使用する情報、という意味で理解しておけば良いでしょう。

この「インプット」については、下記のような階層がなされています。
レベル1:
” 時価の算定日において、企業が入手できる活発な市場 における同一の資産
又は負債に関する相場価格であり調整されていないものをいう。 当該価格は、
時価の最適な根拠を提供するものであり、当該価格が利用できる場合には、
原則として、当該価格を調整せずに時価の算定に使用する。 “

レベル2:
” 資産又は負債について直接又は間接的に観察可能なイ ンプットのうち、
レベル 1 のインプット以外のインプットをいう。 “

レベル3:
” 資産又は負債について観察できないインプットをいう。 “

信頼度の優先順位としては、レベル1>レベル2>レベル3の順となっています。

「評価技法」と「インプット」の組み合わせにより時価を算定する、
ということで、IFRS第13号と同様の方法となりました。

適用時期について

「時価の算定に関する会計基準」 は2021年4月1日以降「開始」する
連結会計年度または事業年度の期首から適用することとされています。

早期適用について、

①2020年4月1日以降開始する連結会計年度または事業年度の期首から
または、
②2020 年 3 月 31 日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から
の適用も認められています。

終わりに

最近の日本基準の改正状況を見ていると、IFRSとのコンバージェンスへの取り組みがより活発になってきているという印象を受けました。
引続き、基準の動向には注目していきたいところです。
以上、matsumotoでした。