日産自動車の役員報酬の過小記載はなぜ見抜けなかったのか?

Hagiyamaです。

昨今、日産自動車の事件(会長の逮捕)が世間を賑わせています。

私事ですが、私は2002年から2007年まで、日産を監査している監査法人に属していました。

その当時から日産はその監査法人のクライアント先でした。

幸いなことに(?)、私は日産の監査チームには属していませんでしたが、監査法人時代の同期の友人は日産を監査で訪問していました(現在はお互いに退職済みです)

日産は今も同じ監査法人が監査しているため、少なくとも15年以上は同じ監査法人が監査していることになります。

 

逮捕されたカルロス・ゴーン容疑者は、私が会計士としてのキャリアをスタートさせた時(2002年)は、カリスマ経営者としての名を馳せていました。

ゴーン氏を特集したテレビ番組があったのですが、

「氏は毎朝7時に出社する」
「日産従業員から氏への不平不満は極めて少ない」

といったような内容が放送されていたことをよく覚えています。

 

ゴーン氏の現在のところの逮捕容疑は、有価証券報告書(略して「有報」)における「役員報酬の過小記載」とされています。

実際の役員報酬の支払総額(約100億円)よりも少ない金額(約50億円)を有報において開示したということのようです。

 

ここで簡単に監査法人の責任についてお話ししますが、有報について監査法人など会計監査人が責任を負うのは、有報末尾に添付されている監査報告書に記載の通り、「経理の状況」より以降の情報のみです。

会計監査人は、「経理の状況」以降に記載されている財務諸表や注記等について適正かどうかの意見表明をします。

 

役員報酬の開示箇所は経理の状況より前の場所にありますので、法律(金融商品取引法)の観点からみると、役員報酬の開示に関しては、監査法人の監査対象範囲外です。

つまり、もし経理の状況より前の開示内容が間違っていたとしても、「法律的には」会計監査人が責任を問われることはありません。

 

ですが、役員報酬も会計に関連する情報であることに変わりはないですので、監査法人は経理の状況以前の内容についても、会計に関する情報に関しては開示があっているかどうかについてチェックをします。

役員報酬でいえば、監査法人は、役員報酬に関する総額(総勘定元帳など)や支払役員別内訳(補助元帳など)と合っているかどうかをチェックします。

 

では、なぜ役員報酬の過小記載ということが起こってしまったのでしょうか?

 

ここからは私の推測でしかいないのですが、役員報酬の過小記載が起きてしまった理由としては、以下のことが考えられます。

 

・日産の管理部門(経理部や財務部等)が、役員報酬に関する会計書類(総勘定元帳・補助元帳・支払情報など)を偽装して監査法人に提出した

・役員報酬の記載事項に対する監査法人のチェックが十分ではなかった

・実際に支払った金銭以外の役員報酬があったが、会計処理をしていなかった

(注:これらは可能性の話であって、断定の話ではありません)

 

大企業であればあるほど、有報を含む開示書類のチェックは、複数人の手によって隅々まで厳密に行います。それこそ何十人となる場合もあります。

そのため、役員報酬の記載について、日産・監査法人の双方が全く何もチェックをしなかったということはおそらくないでしょう。

 

どこに原因があったのか、何が原因で役員報酬の過小記載となってしまったのかは、その真相は捜査が進むにつれて明らかになると思います。

 

日産事件に関しては、有報における「役員報酬の過小記載」以外にも、「投資の資金の不正流用」「経費の不正使用」があるということが、日産の西川廣人社長が2018年11月中旬に行われた記者会見において述べております。

これら「投資の資金の不正流用」「経費の不正使用」についての監査法人の責任範囲については、次回の記事以降で述べたいと思います。