Hagiyamaです。
少し格好いいことを言うようですが、今回は公認会計士としての信念と職業的懐疑心について述べます。
職業的懐疑心がどういうものなのか十分に理解している方からすれば、これから述べる話は当たり前の話でとてもつまらないと思います。
ですが、最近の仕事で職業的懐疑心のない行動を目の当たりにしたため、自分への戒めも兼ねて、記事として残しておこうと思いました。
職業的懐疑心とは、職業的専門家としてしかるべき注意を払うべきとする考え方のことです。
職業的懐疑心は、公認会計士に限らず、あらゆるプロフェッショナルにとって必要とされます。
”懐疑”というと人を疑え!という意味にも聞こえますが、実際はそうではなく、物事を批判的かつ多面的に見ることで、自分の信念を持って物事を判断するという考え方だと思ってます。
会計士の専門業務である会計監査で言えば、「被監査会社(=クライアント)の会計処理を疑うこと」を意味します。
会計処理一つにとっても、たとえば売上でいえば、次のような論点があります。
- 「その売上は実在するか?(言い換えると架空の売上ではないか?)」
- 「その売上をどのタイミングで計上すべきか?」
- 「その売上のお金(=売掛金)はきっちりと回収できるか?」
クライアント側としては、株主や銀行などの手前、売上すなわち利益をなるべく早く多く計上したいと考えるのが通常です。
ここで、クライアントが見た目の業績を良くしたいがために、会計理論的にみてグレーな売上の計上をしたいと考えたとしましょう。
会計監査人としては、売上が会計基準や会計理論に照らして、「本当に売上として認めてもいいのか?」という観点で検討を行います。
この検討にあたっては、冒頭で述べた職業的懐疑心を持つことが必須となります。
ここでこのクライアントの社長とものすごく仲が良かったとして、たとえば一緒に飲みに行くくらいの中だったりして、その社長から肩を叩かれながらこう言われたとしましょう。
社長「〇〇(あなた)さん、あの売上の件、今回は頼むよ~今回だけだからさ!」
ここで会計士が目の前のいつも仲良くしている人に嫌われたくないという一心で、信念も職業的懐疑心もなくクライアントの要望に”応えて”しまったとすると、後で問題になる可能性があります。
公認会計士協会のレビューや金融庁の検査によって監査の不備を指摘され、結果として会計士としてのキャリアにキズが付くことになります。
苦労して取った資格が水の泡になるということもあるかもしれません。
信念と職業的懐疑心は、プロフェッショナルに取ってなくてはならないものだと感じます。
数年前に心理学者アドラーについて語り口で解説した「嫌われる勇気」という本がベストセラーになりましたが、この「嫌われる勇気」を持つことこそが、職業的懐疑心を持つことには必要なことだと思います。
「ダメなものはダメ、おかしいことはおかしい、とはっきり言えるかどうか」
これは簡単なようにみえて、とても難しいことだと思います。
私の経験では、職業的懐疑心を持ち信念を貫けば、結果としてクライアントから信用される結果となると思います。
その社長からは嫌われるかもしれませんし場合によっては契約を切られる可能性もありますが、信念を貫けば、後になって他の正義感のある役員から「〇〇(あなた)さんは正しかった。あの時の社長の判断はおかしかった。」と言われるかもしれません。
(その一方で、真っすぐすぎる信念で正義感を振りかざし過ぎても、逆に物事はうまくいかなくなるというのも事実です。適切なさじ加減が必要なのかもしれません)
クライアントに嫌われたくないと思うことよりも、自分の信念に忠実にいたいと思います。