「租税回避行動を取る」と、「節税する」の違い

Hagiyamaです。

仕事上で税金の話題になった時に、「租税回避行動を取る」という表現を耳にすることがあります。

その方のいう「租税回避」とは、税金負担(=租税)を避ける(=回避)こと、要するに、税金を安くすることを意味していることが多いようです。

ただし、これは「節税する」という表現でも結果は同じで、行動の結果として税金が安くなります。

では、結果が同じであれば、なぜ「節税する」と言わずに「租税回避行動を取る」とわざわざ難しく言うのでしょうか?

おそらくは、”租税回避”と言ったほうが何だか専門的でカッコイイ”と思われているのだと勝手に推測しています(たぶん)


…冗談はさておき、税務の世界では「租税回避」行動と「節税」行動は明確に異なります。

「租税回避」と「節税」は、どのように違うのでしょうか?


前述の通り、租税回避も節税も、行為の結果として税額が低くなるという点では同じです。

専門用語を使って難しく言えば、

  • 租税回避とは、課税要件を充足しないことで課税を回避すること
  • 節税とは、課税要件を充足することで税金を節約すること

を指します。

両者の違いは、「課税要件を充たすか充たさないか」の違いがあります。


では、「課税要件」とは何でしょうか?

これを説明する前に、法律における「要件」とは何かを定義する必要があります。

この法律上の要件について分かりやすい例で言えば、誰かを殴って人を殺めた場合(例として人を殺めることを挙げるのはよくないと思われるかもしれませんが、あくまでわかりやすい例ということでご了承ください)

刑法上の殺人罪が適用されるためには、殴る際に「殺意があること」がその要件となります。

もし仮に殺意がなく人を殴りその結果としてその人を殺めてしまった場合には、殺人罪ではなく傷害致死罪が適用されます。

このように「殺意の有無」という法律上の要件によって、殺人罪か傷害致死罪かで刑法上異なる条文が適用されます。

殺人の容疑者は「殺意はなかった」と言いますが、これは殺人罪の適用を逃れるための方便であったりする場合があり、殺意の有無は法廷で争われることになります。


刑法などの法律には適用するにあたりその要件があるように、税法にも課税するにあたってその要件があります。

前述の通り、租税回避とは税法の課税要件を充たさないような行動を取り課税を回避することです。

つまり、租税回避行動とは、要件(=法律の条文)に書いていないような抜け道、いわゆるグレーゾーンを攻める行動というわけです。

さらにいえば、納税者の租税回避行為を否認するのが税務調査の目的です。

節税行為については、税務調査で調査をされても課税要件を充たしているため課税されることはありません。

課税の公平性から、税務調査官は、節税ではなく租税回避行動を取った納税者について、調査の過程で何らかの理由により課税する可能性があります。

そのため、租税回避行動をするかどうかは、税理士との協議のうえ慎重に決定する必要があります。


ちなみに「脱税」もよく言われますが、脱税についても簡単に。

脱税は、課税要件を明らかに充たしているにもかかわらずそれを無視もしくは気づかずに税金を過少申告または税金自体を申告しないことを指し、違法行為であり有無を言わさず罪に問われます。
最近、宝塚歌劇団トップスターの母親が自信が代表を務める私設ファンクラブの会費収入を申告せず脱税容疑で逮捕されたというニュースを見ました。これは、「一定以上の収入があれば納税義務が発生する」というのが税法での課税要件であり、もし納税しないと脱税となります。「知らなかった」では済まない案件です(そもそも納税は国民の義務であり憲法にも明文があります)


少し話が逸れましたが、繰り返しになりますが税務の世界では租税回避は節税と同じ意味ではありません。

租税回避行動を取る場合には、税務調査での否認リスクを承知の上で行動するか決めたほうが良さそうです。もし節税できる場合には節税するのが一番です。