オーナー企業に対する財務デューデリジェンス(DD)の正常収益力の調整項目例

Hagiyamaです。

コロナ禍の中、財務デューデリジェンス(DD)業務を実施し報告書を作成しました。財務DD報告書(サンプル)(クリックで開きます)

コロナ感染防止対策のため、デューデリの報告会はZOOMを利用したオンラインでの実施となりました。

このご時世にM&Aを検討するというのは、本当に勇気のいることだと思います。

誰もが外出の抑制や消費をあまりしなくなっている今、企業も将来の損失を恐れて積極的な投資を控える・・というのは当然の感覚です。

ですが、「ピンチはチャンス」とは巷でよく言われるコトバ。

コロナ禍を機に事業から撤退したい考える企業もあり、中には俗に言われる”掘り出し物”もあったりします。

コロナにより景気が後退しつつある今投資しないで、将来に疫病終息の兆しが見え景気が劇的に回復してから動いたのでは時すでに遅し・・ということも、積極的に企業への投資を検討する理由なのかもしれません。

もちろんチャンスだからと言って何でもお買い得になるとは限らないので、投資にあたっては慎重な判断が必要です。

 

目次

■財務DDで正常収益力を算定する意義

さて、今回実施したデューデリ案件では、正常収益力を算定する過程で多くの論点がありましたので、その例をご紹介します。

本題に入る前に、「正常収益力とは何か?」を簡単に説明します。

正常収益力とは、事業そのものが正常に生み出す収益力、言い換えれば”異常な”項目を除外した収益力のことです。

 

DD実施前の損益計算書(P/L)には、経営者の”意思”といったものが多分に含まれています。

特に売り手が多くのM&Aで対象となるような会計監査の入っていない非上場企業のオーナー企業(=株式を社長や社長一族が保有しているような企業)だと、社長の意向を受けた顧問税理士が決算書を作成することがあります。

そのため、そのようなオーナー企業では”社長に都合の良い決算書”というものが作成されがちです。

 

都合の良い決算書とは、たとえば法に抵触するかしないかのグレーゾーンの範囲で税金をぎりぎり発生させないような決算書を作成したりなど。。(これはいわゆる「税務会計」「税務基準」での決算書と呼ばれます)

もちろん税務調査でそういったグレーゾーン部分を指摘される可能性もありますが、税務調査は税金の適正な計算と徴収を目的としており、税務調査での修正事項を決算書に反映させても、財務的には正しい決算書にはなりません。

一方で、本来、会計基準は適正な損益計算を実施することを要求しています(これを税務会計と区別するため、「財務会計」と呼ばれることもあります。)

税務会計と財務会計は、そもそもの目的が異なります。

  • 税務会計の目的=公平な税金計算(収益は早く多く、費用は遅く少なく:税金の徴収のため)
  • 財務会計の目的=適正な損益計算(収益は遅く少なく、費用は早く多く:利益の過大計上防止のため)

税務会計で作成された決算書に財務会計を厳密に適用したら、結果として多額の損失が発生してしまう、、ということはよくあります。

適正な財政状態や損益の算出のため、財務DDが必要とされます。

M&Aにおいては、その適正な損益として正常収益力を算定し、その収益力を見て投資の意思決定をします。

 

■オーナー企業における正常収益力の調整項目例

本題です。

正常収益力を算定する際には、現在の帳簿上のP/Lの利益から、主に下記の調整を行います。

  • 1.会計上の調整(財務DDの要修正事項)
  • 2.過大役員報酬の調整
  • 3.個人的支出の調整
  • 4.臨時異常取引の除外
  • 5.追加的負担コストの算定 など

以下、項目ごとにオーナー企業での例を交えて説明します。

 

1.会計上の調整
 財務DDの修正仕訳です。B/Sの調整項目がP/Lに影響を与える場合に反映させます。長期滞留債権の損失処理や遊休固定資産の減損、計上していなかった減価償却費の計上などがその典型例です。

2.過大役員報酬の調整
 オーナー企業において、社長は得てして他の役員や従業員と比べ(目ん玉が飛び出るほど)高い報酬を取っていたりすることがあるので、同業他社の上場企業などの報酬を参考に、その報酬を減額調整します。これには決まった答えは無いので、仮定での計算となります。

3.個人的支出の調整
 これもオーナー企業によくある話ですが、社長の使用した費用で会社と個人の費用の区分が曖昧だったりします。(最近見たニュースで、某ネットアパレル企業の創業者であるM澤元社長が、会社保有のプライベートジェット機を個人目的で頻繁に使用し(某女優GAさんとのデートで?)、税務調査でこの費用を会社の経費として認めないと指摘されたというニュースがありました・・)。
財務DDでは、決算書に含まれる経費のうち、社長個人の費用に属すると思われる金額を算定して調整します。「どこまでが会社の費用で、どこからが個人の費用か?」という明確な線引きをDD期間内でするのは難しいことが多く、そのため一定の仮定計算を置くことがあります。

4.臨時異常項目の除外
 大型の固定資産の売却損益など、毎年は発生しないような損益項目を除外します。特別損益項目として処理されていることが多いです。

5.追加的負担コストの算定
 買収ディールの成立後に追加で発生すると見込まれる費用です。PMI(Post Merger Integration:買収した後の統合プロセス)において、たとえば凄腕で高給の従業員をその企業や事業に送り込む場合などに発生します。

 

上記以外にも正常収益力の調整項目はありますが、ここでは割愛します。

 

■正常収益力とEBITDA倍率

ここからは少し余談になりますが、正常収益力の算定において、最終的にはEBITDAを算出します。

EBITDAは、「Earning Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の頭文字を取ったもので、実務では「イービットディーエー」とか「エビテーダ」とか呼ばれてます。

無理やり日本語訳すれば「純支払利息税金減価償却前利益」・・長ったらしいので、私はこの利益を「エビちゃん」と呼んでます(心の中で)。

このエビちゃん・・もとい、EBITDAは、簡便的には営業利益に減価償却費(非現金支出費用)を足せば算出できるので、発生主義から現金主義に回帰した利益と考えられます。

さらには、EV(Enterprise Value:企業価値)をEBITDAで割ったEBITDA倍率(EV÷EBITDA)を算出し、この倍率について6~8倍がM&Aにおける適正価格・・とかもよく言われますが、記事が長くなってきたのでまた別の機会に紹介しようと思います。

 

それでは。