日本における金融商品会計基準の動向

matsumotoです。

前回はIFRSの金融商品についてお話をしました。こちらは引継ぎ掲載していきますが、今回は関連論点として、金融商品に関するわが国の会計基準の動向についてお話をしたいと思います。

目次

日本における会計基準の歩み

わが国では、2007年にIFRSを定める国際会計基準審議会(IASB)と共に公表した「東京合意」以降、基本的にはIFRSとの整合性を図ることを目的として会計基準が整備されてきました。直近では2018年3月に公表された「収益認識に関する会計基準」が記憶に新しいところです。今般、金融商品に関する会計基準についてもIFRSに整合するように改正を行うべきか、という検討が始まっており(正確にはIFRSをそのまま取り入れるか、米国基準も参考にするか等、パターンは複数ありそうです)、わが国における会計基準を定める企業会計基準委員会(ASBJ)が2018年8月30日付で「金融商品に関する会計基準の改正についての意見の募集」を公表し、関係者の反応を見ています。

ちなみに、金融商品に関する会計基準としては、1999年年1月に企業会計審議会から「金融商品に関する会計基準」が公表され、その後2006年にASBJに移管されているものの、1999年の設定以降抜本的な改正が行われていません。また、実務指針としても2000年1月に「金融商品会計に関する実務指針」が日本公認会計士協会から公表されていますが、こちらも現時点までに抜本的な改正は行われていません。現在は意見募集の段階ですが、改正が決定されれば、およそ20年ぶりの「大」改正となり、従来からのシステムの改修等の準備に要する時間やコストも大きなものとなりそうです。

【参考URL】

「金融商品に関する会計基準の改正についての意見の募集」の公表

主な検討事項

今回の意見募集で検討の対象とされているのは主に下記の3つの領域です。IFRS9が主に下記の領域に分けて規定していることから、その影響があるのでしょう。どの項目を優先的に改正対象とするかについては意見募集の結果決まります。IFRSとの対比も踏まえつつ、各項目について簡単に触れておきます。

①金融商品の分類及び測定

日本基準では、金融商品をその保有目的ごとに区分するのに対して、IFRSでは事業モデル要件、契約上のキャッシュフローの特性要件から区分します。金融資産の分類は、金融資産の減損の範囲に関係することから、分類の検討は大きな課題となりそうです。ほか、実務上影響の大きいものとしては「非上場株式」の評価が挙げられます。日本基準では非上場株式など、「時価を把握することが極めて困難と認められる」有価証券については時価評価をしないことが認めれていますが、IFRS上はそのような場合でも時価評価することを求めています。時価評価に当たっては、マーケットアプローチ等適切な方法を選択することとなりますが、企業側の負担が増えることは確実でしょう。

②金融資産の減損

日本基準では、金融資産に係る損失は原因となる事実(決算日における時価の著しい下落等)が実際に発生してから計上する「発生損失モデル」が採用されています。一方で、IFRSや米国会計基準においては、原因となる事実が実際に発生してから損失を計上するのでは「遅すぎる(too late)」ことが問題視されてきたことを踏まえ、「予想信用損失モデル」を導入しています。これは、将来予測的な情報を反映し、信用リスクの変化を即座に財務諸表に反映させることにその特徴があります。IFRSにおける「予想信用損失モデル」では、個々の債権単位で信用リスクを管理することが求められているため、IFRSと整合するように改正されるとなれば、個々の債権の信用リスクを管理する体制(データの整備やシステムの改修)の構築が必要になるでしょう。

③ヘッジ会計

日本基準では、ヘッジの有効性が80%~125%の範囲内であれば、ヘッジ関係は有効なものとしてOCIに繰り延べておく(繰延ヘッジを前提)ことが可能です。一方、IFRSではヘッジが有効でない部分(「非有効部分」)を算定し、これを損益に計上することが求められます。改正により非有効性部分の算定が必要になる可能性があります。そのほか、為替予約の振当処理や金利スワップの特例処理はIFRSでは認めれらていませんので、IFRSと整合する形で改正された場合には、これらは他の通常のデリバティブと同様に時価評価し、オンバランスが必要となります。時価の算定や決算プロセスの変更が生じる可能性があるでしょう。

終わりに

「金融商品に関する会計基準の改正についての意見の募集」は2018年11月30日までまでとされています。どのような意見が集まり、それを受けてどのような改正方針となるのでしょうか。収益認識に関する会計基準では、IFRS15の和訳+α(代替的な取扱い)の形でしたので、改正に備えて予めIFRS9をさらっておくのも良いかもしれませんね。引続き動向を追っていきたいと思います。

以上、matsumotoでした。