Hagiyamaです。
シンガポール留学時に、長文式監査報告書・KAM(Key Audit Matters:監査上の主要な事項)の最新事情についての講義を受けました。
シンガポールでは現在IFRSに基づいた会計基準を適用しているため、世界的な潮流であるKAMの開示に関しても、世界的にみてかなり早いほうだと推測されます。
このKAMに関しては、日本においても導入に向けて現在議論がなされております。
金融庁から「監査報告書の透明化について」が2017年6月に公表されております。
(参考:金融庁サイト「監査報告書の透明化について」)
現在の日本の監査制度では短文式の監査報告書が採用されており、監査上特段の問題がなければ、いわゆる「適正意見」のみが付されています。
この短文式の監査報告書というのは、どれもほとんど同じ文言であるため、企業ごとの個性がほとんどありません。
正直に言うと、現在の監査報告書の内容は、投資家からはあまり読まれていないと言っても過言ではないでしょう(限定付意見が出ているのならば話はまた別ですが・・投資家にとって興味があるのは、監査法人名くらいでしょうか)
監査報告書を長文化するとは、つまり、監査報告書に「ある種の個性」を入れるということになります。
企業ごとに監査報告書の内容が異なると、監査法人が実施している監査そのものに興味が示される可能性が高くなります。
シンガポールではBig4会計事務所(デロイト・PwC・EY・KPMG)のパートナーをされている方に講義をしていただいたのですが、
「KAMは私にとって、とてもチャレンジングだった」
と仰っていました。
シンガポールでは2016年12月15日以降に終了する事業年度からこのKAMが導入されており、
講師によると、KAMの導入によって監査工数が5日間くらい増加したということでした。
初年度の適用だったため、文案の作成から法人内レビューなどに時間がかかったとのことです。
ちなみに、工数増加による監査報酬の上乗せは難しかった部分があったということです(クライアントに依りけりと言っておりました)
すでに導入済の海外の監査報告書を参考にすることで、初年度の監査工数の時間を減らすことができると考えられます。
講義ではシンガポールにおけるKAMの事例を何社か見せていただいたのですが、それこそ企業により様々でした。
実務においては、
- 記載事項について、クライアントおよび監査法人内の了解が得られるか
- 同業他社ではどのように開示するのか
- どれくらいの重要性をもって事項として載せなければいけないのか
事例を見た限り、監査上の特検リスク(「特別な検討を要するリスク」の略)については載せる事例が多いように思われます。
現在の日本ではほとんど読み飛ばされている(と推測される)監査報告書ですが、長文化監査報告書となった時には、きちんと監査報告書を読む投資家が増えていくことでしょう。
そうなれば、監査の実効性にも焦点が当てられると考えられます。
(Big4パートナーによる講義時。一番奥に座っている背中を丸めているのが私です)