IFRS第9号(金融商品)の減損を考える(2)

matsumotoです。

今まで続きを匂わせておきながら更新のなかった私ですが、今回なんと、前回の続きをお送りします。

さて、前回は金融商品の減損についての総論的なお話をし、IFRS上の債権分類とその判定要素(「信用リスクの著しい増大」)について少し触れて終わりました。今回はその続きということで、「信用リスクの著しい増大」について掘り下げてお送りしたいと思います。まずは前回の復習から軽く初めてゆきましょう。

目次

IFRSにおける債権区分の復習

IFRSでは債権を3ステージに区分するのでしたね。
今一度おさらいしておきましょう。

■IFRS上の債権区分
①ステージⅠ:当初認識以降、「信用リスクの著しい増大」がある
②ステージⅡ:当初認識以降、「信用リスクの著しい増大」がない
③ステージⅢ:信用減損(例:履行遅滞など)している

IFRS上は債権をこのように区分します。
そして、信用リスクの「著しい」増大の有無の判定が実務上は重要になるのでした。
比較時点は当初認識時と評価日時点ということになります。

なお、「信用リスクの著しい増大」は原文では”Significant Increase in Credit Risk” というように記されています。
以降、日本語では冗長になるので、頭文字を取り、「SICR」として表記して参ります。
それでは、「SICR」がどのように整理されているのか見てゆきましょう。

何を尺度とするか?

SICRを判定するに当たり、基礎となる数値は金額でしょうか。それとも、他の何かでしょうか。この点、IFRSでは、倒産確率(Probabillity of Default=PD)の変動に基づき評価を行うこととしています(IFRS9-5.5.9)。金額の大小によるのではなく、(回収可能額の大小にかかわらず、)債権が本当に回収できるのか、というリスクに着目しているわけです。

「著しい」とはどの程度か?

さて、みなさんお待ちかね、「著しい」のレベル感ですが、なんと!明確な定義が実は存在しません。
細則主義ではないIFRSらしい気もしますが…日本基準に慣れ親しんでいるとこのような場合に苦しみます。では、何をもって「SICR」とするのでしょうか。

考え方は色々あるのかも知れませんが、実務上は商品の性質等を考慮して、変動幅(もしくは変動額)の閾値を設定し、閾値を超える変動のものを「著しい」ものと判定するケースが多いようです。

IFRS上のガイダンス

↑で「著しい」について明確な定義はないというお話をしましたが、これではさじ加減に困ってしまいます。IFRS上何か頼りにできる規定はないものでしょうか。この点、IFRSでは次の3つの規定が設けられています。

①信用リスクが「低い」場合にはステージⅡに該当しないものとする推定

グルーピングの話は置いておいて、債権ごとに「信用リスクの著しい増大」を都度判定するのは、債権数が少ないところであれば力業でなんとかなるのでしょうが、IFRSの適用を検討するような企業ともなれば、相当数の取引先がいることが想定されます。その場合にはIFRSの運用に多大な負担が伴います。こうしたことを憂慮して、設定母体であるIASBはこのような例外規定を設けました。

なお、信用リスクが「低い」とされるものの例示として「投資適格」という外部格付けを得た金融商品が挙げられていますが(IFRS9-B5.5.23)、あくまで例示にすぎないので、「投資適格」さえ得られればOKという短絡的な考えを持ってはならず、PDの変動が「著しい」ものではないことを合理的に説明できる状態を整えておくことが望ましいと思われます。

②(支払などの)期日超過30日超の場合には、「信用リスクの著しい増大」があるものと推定する規定(IFRS9-5.5.10)

これは、契約上の支払期日から30日以上超過している場合には、信用リスクが著しく増大していると推定するものです。推定規定ですので(反証可能)、30日超過というのはステージⅠ→ステージⅡの絶対的なラインではなく、ステージⅡへ移行すべき最も遅い時点である捉えることが重要です(B5.519) 。

「予想信用損失モデル」採用しているのに、SICRの判定が遅くなり、発生損失のタイミングとならないようにする、一種のブレーキののようなものであると考えられています(IFRS9-BC5.190,193を参照)。

なお、推定への反証については(1)期日超過が借手の財政上の困難性から生じたものではなく、手続等の不備から生じた場合や(2)債務不履行発生に伴う信用リスクの著しい増大が期日超過30日と相関関係がないことを企業が過去の証拠をもって立証できる場合などがあげられています(IFRS9-B5.5.20)。

③「IFRSでは、信用リスクの著しい増大」→期日超過→信用減損や債務不履行の発生という順番を想定している

IFRSではB5.5.2において、”通常、信用リスクは金融商品が期日超過となるか、または他の借手固有の遅効性要因が観察されるよりも前に増大しており、一般的に金融商品の期日が遅滞する前にステージⅡへ区分されることを述べています。従って、こちらもSICRを判定する上では考慮に入れることが必要な場合もあるでしょう。

実務上の取扱い

実務上は日本基準上の債権の3分類(①一般債権②貸倒懸念債権③破産更生債権等)とIFRS上3ステージはどのような関係にあるのかを整理し(銀行であれば自己査定の5分類と関係を)、企業内部の格付けなども参考にしながら「信用リスクの著しい」増大とは何かについて説明できるようにしておくことが重要なポイントとなるでしょう。

matsumotoが遭遇した事例は「期日超過30日でさっと乗り切れないでしょうか?」というものでしたが…やはり判定する企業側からすればその例外規定を使いたくもなるよなあ…と思ったものでした。

終わりに

今回は、「信用リスクの著しい増大」について掘り下げたお話をしました。

懲りず次回を想定していますが、その時には閾値の設定の事例や日本の債権分類との関係にも触れられればと考えています。
連載形式というのは初の試みですが、なかなか難しいものですね。固くなりすぎにゆきたいです。

長くなりましたがここまでお付き合い頂きましてありがとうございました。
それではまたお会いしましょう。

以上、matsumotoでした。