IFRSにおける退職給付【IAS第19号(従業員給付)より】確定給付制度について

Matsumotoです。
今回も引き続きIAS第19号の中の「退職後給付」ついてみてゆきます。
前回は、IAS第19号における「退職後給付」の分類について主に記載しておりました。

今回は「確定給付型」の退職給付債務について詳しくみてゆきたいと思います。
それでは早速はじめてゆきましょう。

目次

確定給付型の退職給付会計のおさらい

初めに、確定給付型の退職給付会計についてのおさらいから。

確定給付制度においては、企業は従業員に対して(将来の退職時の退職金という)
長期的な債務を負うことになります。
当該債務の支払いのために、実際には企業外部に資金を積み立てて運用する
形式が多いです。

確定給付型の退職給付制度における会計では、従業員に対する長期的な債務
(確定給付制度債務(Defined Benefit Obligation)と、当該債務の支払いのために

積み立てられた資金(IFRS上は「制度資産」Plan Assets と呼ばれています。
日本基準上は「年金資産」がこれに相当します。)との純額を貸借対照表上、
負債又は資産に計上することになります。

確定給付型退職給付会計における計算要素

前回と重複するところもあるのですが、前回はざっくりとした説明でしたので、
計算上の構成要素についてもう少し詳しくみてゆきます。

①当期勤務費用、確定給付制度債務
当期の勤務費用は、以下のステップで算定します。
1)将来の退職給付の見込額を算定する
数理計算上の技法を用いて、従業員の将来の退職給付総額を見積もります。
その際には、一般に退職率や昇給率、死亡率など、様々な計算上の過程を
考慮が考慮されることになります。
実際には年金数理人(アクチュアリー)という専門家が関与することになります。
この点、日本基準も特段相違するところはありません。

2)将来の給付見込額を各勤務期間へ配分する
1)によって従業員の将来の給付見込額を算定できたら、これを予測単位積増
と呼ばれる方式により各期に配分することになります。この方式は、従業員が
勤務を行えば行うほど、将来の退職給付を受給する権利を徐々に獲得してゆく、
という考え方に基づくもので、制度の給付算定式にを反映するように配分され
ますが、勤務期間の後半に著しく高い水準の給与となるような場合には、
各期の配分額を平準化する目的で、定額法により配分します。
この点、日本においても「給付算定式基準」と呼ばれている方式がこれを踏襲
したもので、勤務期間後半に給付が著しく偏る場合に均等配分が求められている
点も同様です。

3)2)によって算定された各期の配分額を、現在価値に「割引く」ことにより、当期の勤務費用と当期末の退職給付債務を算定することになります。
割引計算をする際の「割引率」については、IFRSにおいては期末日現在の
優良社債の利回りとされていますが、社債について十分な市場がない場合には、
国債の利回りに基づいて決定されます。

②制度資産
期末の制度資産は、公正価値で測定されることになります。
この点、日本基準においても同様です。

③確定給付制度債務と制度資産の純額に対する「利息純額」
ここは、IFRSにおける特徴的な処理と言えるのではないでしょうか。
というのも、日本基準においては退職給付債務に係る「利息費用」、年金資産に
係る「期待運用収益」としてそれぞれ認識されるのに対して、IFRSにおいては
まず退職給付債務と制度資産の差額を把握し、これに対して割引率を乗じること
によって利息「純額」を算定するからです。
さらに特徴的なのは、利息「純額」の算定当たって必要になる割引率は、
退職給付債務と制度資産に共通の割引率であるということになります。
(日本基準上は、退職給付債務に乗じる割引率と、年金資産に乗じる期待運用収益率は完全に別物です。)

④再測定
制度資産の実際の収益から制度資産に割引率を乗じた額を控除した金額、
および退職給付制度債務から生じた数理計算上の差異を合わせます。
IFRS上は「再測定」という用語で分類しています。

⑤過去勤務費用
過去勤務費用とは、退職給付制度の改定に伴い生じる、過去の勤務部分に
対する確定給付制度債務の現在価値の増減分を指します。
私が関与した事例では、退職給付の計算対象期間を延ばすという制度の改定があり、従業員とっては良く企業からすれば将来の退職給付債務が増えるというものでした。

IFRSでの会計処理について

上記のそれぞれの計算要素について、IFRSでは次のように処理を行います。
・ 当期勤務費用 ⇒当期純利益に含める
・ 確定給付制度債務と制度資産の純額に係る「利息純額」⇒ 当期純利益に含める
・再測定(数理計算上の差異等)⇒その他の包括利益に含める(リサイクリングなし)
・過去勤務費用⇒ 当期純利益に含める(即時認識)

日本基準においては、数理計算上の差異や過去勤務債務の遅延認識
(その他の包括利益に計上し、一定期間にわたって定額で償却すること)
が認められている点や、当該償却は当期純利益へ含める(リサイクリング)が
認められている点で、このIFRSの処理と異なります。

終わりに

今回は「確定給付型」退職給付会計について掘り下げました。
IFRSでは日本基準とは異なるところも多いため、ご留意頂ければと思います。
以上、Matsumotoでした。