なぜIFRSではのれんを償却しないのか?

Hagiyamaです。

— 海外子会社の決算書を日本基準に調整する時、現地が計上している「のれん」について「のれん償却費」の調整仕訳を認識し・・・–

これはグローバル企業の連結経理チームでは、おなじみの光景かと思います。

これは、IFRSでは「のれんは非償却」としていることに因ります(その代わり、のれんに関する減損テストは毎年必ず実施します)

では、なぜ日本基準ではのれんを償却するのに対して、IFRSではのれんを償却しないのでしょうか?


IFRSでのれんを償却しない理由は、表向きは「のれんたる超過収益力の源泉は、未来永劫減耗しない」という考え方に基づいています。

ですが実はその裏の理由として、業界団体による政治的な圧力によってのれん非償却とする会計処理が決定されたとされています。

聞くところによると、某国のとある業界団体が「のれんの償却費を計上すると損益が悪化するから償却しないようにしたい」と圧力をかけたとされています。(これは嘘か本当かはわかりません)


もしこういった理屈で会計基準が決まってしまうとすれば驚きですが、こういった”圧力”については、日本でも不思議なことではありません。

たとえば現在の日本のリース会計基準においては、「リース料の総額が300万円以下のリース契約は賃貸借処理も可能(=オンバランスしなくてもいい)」ということになっています。

この300万円という金額は、IFRS第16号(リース)にて目安とされている基準金額(5000米ドル:約60万円)と比べると、著しく高いものとなっています。

つまりリース契約の金額の基準によっては、リース契約についてIFRSに従うとオンバランスされる一方で、日本基準に従うとオフバランスされる契約が出てくるということになります。

この300万円という国際ルールと乖離した金額について、低い金額でもオンバランスされるとリース契約自体を避ける企業が出てくることを危惧した、日本のリース業界からの圧力があったとされています。

会計基準が論理ではなく政治的な圧力によって決まってしまう可能性があるというのは、なんとも悲しい事実です(こういった圧力は会計だけに限った話ではないかもしれませんが)


のれんに話を戻しますと、のれんの本質は「将来の超過収益力の源泉」です。

純資産よりも高い価格で株式を取得した場合にのれんが発生しますが、なぜ純資産よりも高く買うかというと、それは純資産という現在の価値ではなく、将来の成長による収益力を見込んでいると考えているためです。

例えば、現在1万円の価値のモノに3万円を払うといった場合、将来においてそのモノが2万円以上の超過の価値を生むと考えているからにほかなりません(説明簡略化のため、割引現在価値は無視しています)。

差額の2万円がのれんとなりますが、この2万円の超過収益力について、将来においてのれんを償却するかしないかについては、次のような考え方に因ります。

  • のれんを償却しない:将来の超過収益力の源泉は未来永劫続く
  • のれんを償却する:将来の超過収益力の源泉は時の経過とともに減少する

のれんを償却するということは、超過収益力の源泉は未来永劫続くものではなく、時の経過に応じて徐々に減少するものと考えています。この考え方は、固定資産の減価償却と全く同じ考え方です。


実はIFRS設定主体においても、「やはりのれんは償却すべきではないか?」という議論が現在起きています。

もしかするとIFRSにおいても、のれんを償却するという時期がやってくるのかもしれません。